「生きてゐる小平次」「風」「お国と五平」2022
2022/12/01 (木) ~ 2022/12/06 (火)
@サブテレニアン
https://www.subterranean.jp/access
板橋ビューネ2022/2023参加作品
鈴木泉三郎「生きてゐる小平次」は大正時代の傑作戯曲。谷崎潤一郎の「お国と五平」の影響で書かれたとされ、奇しくも長堀博士が2012年には「生きてゐる小平次」の影響から「風」という短編を書き上げていた。本公演では「ルーツ」をキーワードに、それらの作品を紹介していく。
出演:
「生きてゐる小平次」
イトウエリ
しんばなつえ
大畑麻衣子(miez miez)
「風」
小林なほこ
市川未来
大畑麻衣子(miez miez)
「お国と五平」リーディング(12/4(日)14:00と12/6(火)14:00の2ステのみ)
塩山真知子
三品洋二郎
久堂秀明
作: 鈴木泉三郎、長堀博士、谷崎潤一郎
演出: 長堀博士
音響/音楽: 齋藤瑠美子
舞台監督/照明/美術: 長堀博士
舞監助手/照明: 大根田真人
チラシデザイン: 小田善久
*出演者それぞれの予約フォーム
「生きている小平次」「風」
大畑麻衣子 https://ticket.corich.jp/apply/202121/006/
小林なほこ https://ticket.corich.jp/apply/202121/007/
しんばなつえ https://ticket.corich.jp/apply/202121/003/
イトウエリ https://ticket.corich.jp/apply/202121/002/
市川未来 https://ticket.corich.jp/apply/202121/005/
「お国と五平」
塩山真知子 https://ticket.corich.jp/apply/202121/010/
三品洋二郎 https://ticket.corich.jp/apply/202121/011/
久堂秀明 https://ticket.corich.jp/apply/202121/012/
料金: 前売¥2800/当日¥3300-
学生¥2300-/学生当日¥2800-
*1枚のチケットで、「お国と五平」も観劇可能です(要予約)
*「お国と五平」の観劇のみの場合は、¥1500-
観劇の手引き:
ずいぶん昔の話だが、2002年の3月に鈴木泉三郎の『生きてゐる小平次』をお客さんとして観ている。劇場は、当時アバンギャルドな空間として有名だった法政大学の学生会館大ホール。ク・ナウカの公演であった。当時、ク・ナウカの演出家の宮城聡さんは利賀演出家コンクールの審査員を歴任されていて、そのコンクールの常連参加者だった長堀にとっては、その時の観劇に強く影響されることとなった。少人数である3人芝居、1時間に満たない濃密な古典戯曲の演出作品で、戯曲の面白さに演出の妙が加わり、短い公演期間だったのだが2回足を運んだくらいである。そして、その年の夏に参加する「利賀演出家コンクール」の課題戯曲の中に、谷崎潤一郎の『お国と五平』があった。実は『生きてゐる小平次』という作品は、その執筆の数年前に上演された新歌舞伎『お国と五平』の影響を受けて書かれたとされる作品で、まだ長堀にそのような知識はなかったものの、似た要素のある『お国と五平』をコンクールの上演作品に選んだのは、今考えれば必然だったのかもしれない。そして、この作品の上演で、利賀のコンクールでの長堀の評価が180度変化することになる。長堀が行った演出上の一つが問題視され、失格と烙印を押されるのだが、(それはいつものことだが、)優れた点は優れた点として評価され、良い手応えで上演することが出来た。仕込みからバラシまで豪雨と呼んでもいい中での野外劇、出演者、スタッフには大変な思いもさせてしまったが、演出家として、この作品の上演から始まった「何か」があると思っていて、単なる良い思い出だったという以上の意味のある公演であったと考えている。その時のメンバーが、今回も出演してくれる塩山真知子、三品洋二郎、久堂秀明の3人である。実はそれぞれ、しばらく舞台の世界から離れていたこともあり、今回は奇跡の集合と言えばそうなのだが、全員がリハビリ、という側面もある。特に病気にて数年舞台を離れていた久堂氏に至っては、戦線離脱の原因が病気なので本当にリハビリである。今回、朗読にて、メインの公演の隙間に2回お届けすることにした。初演から数えて20年の歳月が流れている。長く劇団を続けて行くことで、こういう機会を得られることはとても幸せだと感じている。さて、こりゃ、なかなかワクワクする状況だ。
「いいや。お国さんが僕を捨てたのは伊織殿がいたからではない。僕が悪い人間だからです。それは僕だって知っている。それでも僕は伊織の奴が憎かったんです。あの男を褒め称える世間と言うやつが憎かったんですよ。奴は誰が見たって立派な侍。僕は不運な生まれの男。それなのに人は僕を憫れもうとしないであの男の味方ばかりをする。恋の恨みもあるにはあるけど、僕は世の中と言うものに盾をつく気で伊織殿を殺してやったんです。闇討ちは卑怯だと云うけど、女々しい男が立派な侍を殺すのに、他にどんな手段が考えられますか? 僕のような弱い人間は、卑怯になるしか方法がないんですよ!」
さて、先に番外公演的な『お国と五平』の紹介になってしまったが、今回のメインの作品は、上記の中に出てきた鈴木泉三郎『生きてゐる小平次』である。古典作品のフェスである板橋ビューネの上演作品として今回選んだのが『生きてゐる小平次』であった。過去に、リーディングスタイルの作品として上演経験があったが、今回初めて本格的に上演することにしたのである。作者、鈴木泉三郎は、大正時代に30歳の若さで亡くなった若き劇作家で、それまでに華々しい経歴も少なく、もしもこの『生きてゐる小平次』がなかったら、歴史に名を残してはいなかったかもしれないと想像する。雑誌に掲載されたこの作品が彼の絶筆であり、その後すぐに亡くなった為に、翌年に新歌舞伎として上演された舞台を泉三郎は観ることが出来なかった。しかし、その上演が高い評価で迎えられ、その時代の代表的な名作とまで云われるようになっていく。没後に評価される、という意味で、宮沢賢治やゴッホなどを彷彿とさせる。 実は、この話の「小平次」というのは、四谷怪談の「お岩」と並ぶ、江戸の2大幽霊である。ネットで小幡小平次(こはだこへいじ)で検索すれば、この『生きてゐる小平次』以前の、有名な怪談話や、派生した逸話などが出て来るし、そのエピソードがけっこう面白い。『生きてゐる小平次』とは、それまで有名だった小平次の怪談をベースとして、鈴木泉三郎が新しい解釈の下に書いた新作怪談なのである。話の面白さは折り紙付き、怪談としては、実はかなり異質であるのだが、ぜひ観て驚いていただけたら嬉しいと思う。さて、今回出演するしんばなつえ、イトウエリ、大畑麻衣子には、共通点がある。楽園王の、新型コロナで公演が中止となり、配信という形でのみの発表となった作品の出演者だったのだ。楽園王では悔しい思いを共有した仲間。イトウさんや大畑さんはその後、有観客の公演にも参加してもらっているが、しんばさんに至っては今回はやっとで、実は2006年の公演以来である。皆の募る思いがこの作品で爆発したら面白い。
「友達、だと思って呉れているんだと思って、この年月、苦しい恋を続けて来たというのに、そう言われてはどうにも気が済まねえ。役者稼業に身をせばめていても、これでも男一匹だ。まだ腹の中までくさってはいないつもりだ。おれは惚れた事のない女には、これまで一度も手を出した事はねえ。愚痴も極道も惚れたればこそのこと、ついした浮気ぐらいなら何も好んで太鼓打ちの女房なんぞに手を出すもんか。憚りながらこの小平次、真実のない情事(いろごと)は決してした事はねぇ。」
そして、実は短い作品である『生きてゐる小平次』に併せて、今回は『風』という長堀博士執筆作品も上演することにした。『生きてゐる小平次』『お国と五平』と並べてみて、「ルーツ」という言葉をキーワードにした時に、あれ?、長堀にも『生きてゐる小平次』の影響で書いた短編があったなぁ、と思い至ったのだった。2012年に書いて神楽坂ディプラッツで行ったJTANフェスの中で初演したもの。実は近年、ゲイジュツ茶飯などのさひがしジュンペイ・プロデュースの公演にて何度か取り上げられ、若い俳優が演じてくれた公演があったし、2019年には怪談ばかりを並べて上演した楽園王公演『夏の階段、一足飛び』の中でも上演している。いかにも、な、長堀作品らしい短編で、代表作の一つとしていつでも何度でも紹介したい作品である。出演するのは、小林なほこ、大畑麻衣子の楽園王お馴染みのお二人に、市川未来が加わる。市川さんは、彼女が係る中心的なカンパニー、オフィス再生はもちろん、最近は楽園王やウテン結構でもお世話になっている名制作者なのだが、しばらく舞台に立っていないだけで役者さんでもあるので、今回お声がけをした。『お国と五平』に出演する塩山さんとは演劇学校で同級で友達である。今回、○○年ぶりに演劇に、って人がとても多い座組なのだが、彼女もその一人になる。この作品の執筆は、特に印象的だった『生きてゐる小平次』の第一幕からアイデアを得ている。同じじゃん、と思う方もいるかも知れないが、長堀テイストも健在だ。今回、名作『生きてゐる小平次』と一緒に上演できることに、作者として襟を正す心境である。良い競演となったら嬉しい。
「酷い? 何言ってる、褒めてるんだよ、いい女だと。俺は多恵子を絶賛しているんだぜ。なあ、お前は本物の多恵子を見ちゃあいないんじゃないか? お前は自分に都合のいい幻を見てるだけなんじゃないのか?」
あらためて、今回はまず面白い戯曲3篇が上演される公演である。出演者も充実している。稽古をしてみて手応えを得て、カンパニーの代表作になるような上演作品にしたいと思っているので、どうか多くの方に目撃してもらいたいと願っている。楽園王、31年目の秋の公演にて。(演出、長堀博士)
「いいや。お国さんが僕を捨てたのは伊織殿がいたからではない。僕が悪い人間だからです。それは僕だって知っている。それでも僕は伊織の奴が憎かったんです。あの男を褒め称える世間と言うやつが憎かったんですよ。奴は誰が見たって立派な侍。僕は不運な生まれの男。それなのに人は僕を憫れもうとしないであの男の味方ばかりをする。恋の恨みもあるにはあるけど、僕は世の中と言うものに盾をつく気で伊織殿を殺してやったんです。闇討ちは卑怯だと云うけど、女々しい男が立派な侍を殺すのに、他にどんな手段が考えられますか? 僕のような弱い人間は、卑怯になるしか方法がないんですよ!」
さて、先に番外公演的な『お国と五平』の紹介になってしまったが、今回のメインの作品は、上記の中に出てきた鈴木泉三郎『生きてゐる小平次』である。古典作品のフェスである板橋ビューネの上演作品として今回選んだのが『生きてゐる小平次』であった。過去に、リーディングスタイルの作品として上演経験があったが、今回初めて本格的に上演することにしたのである。作者、鈴木泉三郎は、大正時代に30歳の若さで亡くなった若き劇作家で、それまでに華々しい経歴も少なく、もしもこの『生きてゐる小平次』がなかったら、歴史に名を残してはいなかったかもしれないと想像する。雑誌に掲載されたこの作品が彼の絶筆であり、その後すぐに亡くなった為に、翌年に新歌舞伎として上演された舞台を泉三郎は観ることが出来なかった。しかし、その上演が高い評価で迎えられ、その時代の代表的な名作とまで云われるようになっていく。没後に評価される、という意味で、宮沢賢治やゴッホなどを彷彿とさせる。 実は、この話の「小平次」というのは、四谷怪談の「お岩」と並ぶ、江戸の2大幽霊である。ネットで小幡小平次(こはだこへいじ)で検索すれば、この『生きてゐる小平次』以前の、有名な怪談話や、派生した逸話などが出て来るし、そのエピソードがけっこう面白い。『生きてゐる小平次』とは、それまで有名だった小平次の怪談をベースとして、鈴木泉三郎が新しい解釈の下に書いた新作怪談なのである。話の面白さは折り紙付き、怪談としては、実はかなり異質であるのだが、ぜひ観て驚いていただけたら嬉しいと思う。さて、今回出演するしんばなつえ、イトウエリ、大畑麻衣子には、共通点がある。楽園王の、新型コロナで公演が中止となり、配信という形でのみの発表となった作品の出演者だったのだ。楽園王では悔しい思いを共有した仲間。イトウさんや大畑さんはその後、有観客の公演にも参加してもらっているが、しんばさんに至っては今回はやっとで、実は2006年の公演以来である。皆の募る思いがこの作品で爆発したら面白い。
「友達、だと思って呉れているんだと思って、この年月、苦しい恋を続けて来たというのに、そう言われてはどうにも気が済まねえ。役者稼業に身をせばめていても、これでも男一匹だ。まだ腹の中までくさってはいないつもりだ。おれは惚れた事のない女には、これまで一度も手を出した事はねえ。愚痴も極道も惚れたればこそのこと、ついした浮気ぐらいなら何も好んで太鼓打ちの女房なんぞに手を出すもんか。憚りながらこの小平次、真実のない情事(いろごと)は決してした事はねぇ。」
そして、実は短い作品である『生きてゐる小平次』に併せて、今回は『風』という長堀博士執筆作品も上演することにした。『生きてゐる小平次』『お国と五平』と並べてみて、「ルーツ」という言葉をキーワードにした時に、あれ?、長堀にも『生きてゐる小平次』の影響で書いた短編があったなぁ、と思い至ったのだった。2012年に書いて神楽坂ディプラッツで行ったJTANフェスの中で初演したもの。実は近年、ゲイジュツ茶飯などのさひがしジュンペイ・プロデュースの公演にて何度か取り上げられ、若い俳優が演じてくれた公演があったし、2019年には怪談ばかりを並べて上演した楽園王公演『夏の階段、一足飛び』の中でも上演している。いかにも、な、長堀作品らしい短編で、代表作の一つとしていつでも何度でも紹介したい作品である。出演するのは、小林なほこ、大畑麻衣子の楽園王お馴染みのお二人に、市川未来が加わる。市川さんは、彼女が係る中心的なカンパニー、オフィス再生はもちろん、最近は楽園王やウテン結構でもお世話になっている名制作者なのだが、しばらく舞台に立っていないだけで役者さんでもあるので、今回お声がけをした。『お国と五平』に出演する塩山さんとは演劇学校で同級で友達である。今回、○○年ぶりに演劇に、って人がとても多い座組なのだが、彼女もその一人になる。この作品の執筆は、特に印象的だった『生きてゐる小平次』の第一幕からアイデアを得ている。同じじゃん、と思う方もいるかも知れないが、長堀テイストも健在だ。今回、名作『生きてゐる小平次』と一緒に上演できることに、作者として襟を正す心境である。良い競演となったら嬉しい。
「酷い? 何言ってる、褒めてるんだよ、いい女だと。俺は多恵子を絶賛しているんだぜ。なあ、お前は本物の多恵子を見ちゃあいないんじゃないか? お前は自分に都合のいい幻を見てるだけなんじゃないのか?」
あらためて、今回はまず面白い戯曲3篇が上演される公演である。出演者も充実している。稽古をしてみて手応えを得て、カンパニーの代表作になるような上演作品にしたいと思っているので、どうか多くの方に目撃してもらいたいと願っている。楽園王、31年目の秋の公演にて。(演出、長堀博士)